冬が来た、 と思う。はあ、と息を吐けば白くまとまった何粒の水蒸気が「吐息」として出てくる。昔はそれが愉しくて、口から何度も息を吐き続けていたのを覚えている。でも、それは冬を感じた自分が嬉しかっただけ。もう少しで雪が降るのかと思い、少し冬休みの予定を考えるのは、昔からの癖だった。それと同時に今年の冬は、プラスアルファーに寒さに耐えるより我慢しなければならないことがある。たぶん、それがなくなるのであれば、俺は何でもするだろう。でも、自分がそれをしたことによって何も変わるわけではないから。そういうのが数学よりも難しくなるんだ。自分には難しすぎて、子供みたいに人の死までも考えられないんだ。
数ヶ月前の夏にそれを告げられてから数ヶ月経って、今、本格的な冬が始まろうとしている。冬が始まったら、冬になったら、冬になったら、冬になれば、と毎日のように思っていて、愉しみもないのに、ある一定の日にちになるまで閥印を赤ペンで色づけている。(今日は青色のペンで丸印だったけれど)
冬が今来たのか、としみじみ思うものの、それが今年は淋しくて、なきそうで、叫喚しそうで。冬になったから、寒さだけ残しては俺の前から旅立ってしまう。そう言葉につづられた恭子からのメールを見て、どきっと、胸が高鳴ったかと思えば、それは静かに沈んでいったことを覚えている。(ゴメンネ、クリスマス過ごせないネ なんて、ずるい)
そして、それを、その儘にして冬を迎えた自分が今でも歯痒く思う。別れなんて、考えてもなかった。別れなんてしたくない。毎日会えない顔が見れないなんてかなしい。何も出来ない自分がくやしい。何も声をかけられなかった自分がにくい。(そんなこと思ったって、何も変わるはずじゃないのに )

( ぼくは臆病の猫の儘でいい )
( そう思っているから、 )
( でも、 )
( 自分なりに笑えよ )
( 泣かない オトコは人前で泣いちゃいけない )
( どう声をかけるの? )
( 、やっぱり自分には何も出来ないよ )
( が 、が 、 )

だめ?って訊きたくなるんだ。こういうとき、ホンモノの優しさを持ってるに訊ねたくなる。優柔不断な自分じゃイケナイですか? 、って。そんなこと、勇気を出しても震えるくせに、ね。






  …あ、白いものが空からひらひらと紙吹雪みたいに目の前を落ちていく。段々と増えてゆくのを何も考えずに見て、この一秒が別れを近づける時計を何かを考えながら見つめる。受話器越しに無機質な音が何度も繰り返しているから、もう諦めていた。昔からの神経質で、お遊びの約束をしても最低五回は電話で確認するし、もしかしては電車でもう遠くへ行っちゃったんじゃないか、なんて。そう考えると、冷や汗がでて心配になる。、なんてドラマみたいに呟けば、右から左に抜けた音が途切れる。その瞬間にもの凄い勢いで、「もしもし!」なんて口が勝手に動いたんだ。雪が降ってる、って冷静冷酷冷淡に話しかけて男気をだしたかったのに、いつものように滑ってから回り。(でもは計画がない俺を面白いというから、)こうやって会話することも最後なんだなあ、なんて。静かなもどかしさを感じれば、腕にある筈のない変なぬくもりを感じる。思えばもう少しで電車が来るんだ、と焦りを顔の表情にしながら、振り向けば、そこには見覚えのある顔があって、それは紛れもなくで、何故だが頬が緩んでしまった。
「どうしたの?」なんて、電話も切らずに言うから、俺はその儘電話に話しかける。安堵の微笑みを向ければ、それに応えて煌煌なんて音が聞こえるような満面の笑みで返してくる。それだから、別れが辛くなるんだ。の所為ではないし、雪なんて全部溶けてしまえなんても思ってもいないし、電車が来なければいいなんてはまったく考えない。そもそも考えちゃいけない。(の不幸せを願っているのと同じだから。)「時間。時間はきちんと守らへんと遅れるやん」って、普段どおりの自分で返せば、「寝坊しちゃってさ」なんて、なんの濁りや訛りもない言葉で返して、笑う。どうしてそんなに普通でいれるの、なんて訊けばここで沈黙が続くからやめることにする。でも、には総てお見通しで、「普通じゃなきゃ、みんな気を使っちゃうでしょ」なんて。刹那に、ああ、別れたくない、という感情が強く強く芽生えてきて、でも、我儘になっちゃダメ、って。それでも思えば思うほどに、胸が締め付けられてくる。(それはまるで魔法のように)
黙って無意識に下を向けば、右耳と左耳から同時に、大声な笑い声が響く。笑い主のほうを向けば、「しっかりしなさいよ、オトコなんだから!」、が、 笑う。そのあとに、女優さんの演技を見ているような上手な目線の落とし方をして、「丸山くんが明るくないと、私も沈んじゃうよ、」そういって、少し上目遣いをすれば、今まで愛してきたの総てを見ているようで、これから別れなんだ、と鼻がつんと音をたてる。
ダメだ、泣きそう。寒さが凍みてくるから、言葉が胸に沁みてくる。どうしよう、かなしいよ。、いかんといて、寂しくなるやん。大切に守るから、もっと、隣におってや、なあ、、 

「じゃあ、行くね 、」




窓の奥が無性に遠く感じる。雪が頭で溶けていく。肩にかかって、埃かぶりみたいだ。はいつでも笑っている。笑っているから、俺は安心して隣に居れたのに、今になれば居心地が悪くなっている。(俺だけ泣いているのなんて格好悪い)

笑っているの口が、「サヨナラ」と動くのが怖くて。

憫笑なんて何度もどんな大声でもしてもいいから、臆病な俺にだけを失わせないで、なんて神様に願えば、それは見事簡単に裏切られて、発車ベルが涙を誘う。ねえ。話しかけるだけでも力が入って、それで足が震えて動けなくて、どうやっても口が開かなくて、もどかしくて、でもとは一生会えないかもしれないし、住所なんて聞かないでって言ったを信じたかったし、電話だけでもいいからしたいけど、でも、逢うことなんてないかもしれないし、だから、伝えておきたいのに、だけれど、だけれど、だけれど 、
そうやって、ゆっくり動き出した石油のかたまりは、窓に曇りをつけて走り出す。スキ、って二文字だけだけど、いつまでたっても言えなかったから、泣きたいくらいに、当然くやしい。(だけど、何もすることが ないんだ)

電車の音まで消えたかと思えば、へなへな座り込んでいる自分がいて、緊張感にあふれた体と肌はぐったりとつかれきっている。泣かない、と決めていたのに、が見えなくなると、ぐわっと何かがあふれてきて、止められないほどに、冷たい風には丁度良い生ぬるい液体が、頬を伝う。


そうして、、と呟けば、涙と雪が混じりながらコンクリートに溶けていった。






ちいさなせかいを大粒の涙で潤おしましょう

( 無意識に口が動いたことに キミは気付きましたか )