(ああ、何かが聞こえる、)ごめん、そう聞こえた気がして振り返ってみても、酸素と窒素と少しの二酸化炭素が混じっただけの空気しか見えなかった。何だ、と思えば次は、自分の名前が聞こえてきて、目を瞑ればそこには、がいる。すばらしいほどの笑顔で、きれいで、手が届きそうだけれど、僕はその腕を伸ばそうとしない。重力にしたがって、重い腕は、頑なに地面へとへばりついている。届くと思っていた自分が、届かないことの悔しさを惜しむのが厭だからだ。(それはただ臆病なだけだけれど)
日々想い出に浸る毎日で、見える筈がないと、頭の中で勝手に作り上げた、笑顔。そこには、いつものがいて、気さくに笑いかけてくれることが日々嬉しくて。それとともに、当り前になってくるのが人間だと初めて判った。何もかもに依存する自分だから、気に入ったものは絶対に手放したくないと、そうして大切にしすぎるから。大切にしすぎて、表だけしか見えなくて、それなのに、突っ走って思い込んで、最終的には傷つけてしまう。いいよなんて笑うのに、手を合わせて何度もごめんって言うの、癖だった、ような 、


「マルちゃん。いいよ、もう、本当、ごめんね、マルちゃんに話すようなことじゃなかったよね、ごめんね」


そうやって、思い込ませていたのは自分だと、気付くのが遅すぎた。いいといえば、そのとおりにする俺で、それがいけないと言えないで、(それで成り立っている と、)
本棚からみつかった懐かしい想い出は
まるでアクセサリーのように、過去を当り前に飾るから