「そうして、あっけなくつかまったウサギは狼に頭から丸呑みにされました。お終い」



ウサギにとっての人生は、結局おおかみに食べられて死んでしまうだけ。ただ、それだけ。
私がウサギだとしたら、狼に丸呑みにされてそれでお話はお終いにはならなかった。悔しい。いつも後姿だけを追いかけていた私は、後ろの気配に気付くこともなく、大きな影に震えればよかった。それだけだったら、よかった。まだこんなに胸が高鳴っているなんて。その酷い言葉の数々を私にぶつけてあなたは、快楽を味わっているのかと思っていればよかった。それで、よかった。サディズムが入ったあなたにぞわぞわと背筋を冷ややかにさせるマゾヒストな私。それで世界を天秤にかけて整えていたのに。


ウサギは、吐き出されることもなく、抵抗するよちもなく、その儘消化されて消えていきました。



そう呟いて自傷すれば、優しい優しい錦戸くんは、一緒に嘲笑をする。でもその後に、今にも泣きそうな目をして、子供のように紫黒な髪の毛を揺らせば、次は微笑みに変える。ダメだ。ダメだよ。ずっと大切にしてきたものをなくしたからといって、ひび割れた心を癒すものを求めては、絶対にいけない。それがどんなに遠くにあっても、 ほら、こんなふうに手を伸ばせば暖かい体温に触れられそうな位置にいても。錦戸くんは、愚かでも下劣でもないはずだから、私から指を伸ばして汚れさせてはいけない。穢れさせてしまえば、また私は新しいものをもとめて、自分から羽を広げる。


そんな、厭わしい女よ。



だから、そう、ほら、そんな風に笑わないで。笑うならもっと卑劣に不器用に根こそぎ私の総てを嗤ってよ。私の心を癒さないで。触らないで。みんな私は失ってしまうから。遠ざかってしまうから。たとえ時が止まったとしても、私は進み続けるから、ほら、こうやって離れなきゃずっと此の儘になってしまう。私に永遠があったとしたら、これが輪廻してしまうから、同じ罪を受けて同じ過ちを犯してしまうから、ねえ、


汚れていてね、あたしより酷く、総てに愛されないでいて

( だから、あと10びょうだけあまえさせて )